親と同居していた兄弟が遺産を使い込んでいたらどうする?
よくある使い込みの事例
弁護士への相続のご相談の中で、多くあるのが、
兄弟から親の遺産の目録が届いたけど、思っていたよりもやけに預金が少ない…
親の預金が生前に同居している兄弟に使い込まれていたのではないか
というご相談です。
実際に、当事務所では、親が死亡後に、親の預貯金の履歴を調べてみると、必要以上に財産が引き出されていた、別の兄弟姉妹に送金されていた、ということが発覚し、相談に来られたケースがございます。
相続預貯金の使い込みが発覚した場合に何ができるのか
相続財産である預貯金が、親の生前に、相続人の一人によって引き出されていることは、非常によく見られます。
相続開始前に、被相続人である親以外の者によって、預金が引き出された場合、それが親の意思に基づかずに行われたものであれば、相続人は、引き出しを行った人に対して、その返還を求めることができます。
法的に正確に説明すると、亡くなった方の意思に反して、その方の預貯金を引き出していた場合、亡くなった人は、その引き出した人に対して、不当利得返還請求権(民法第703条または第704条)または不法行為に基づく損害賠償請求権(民法第709条)という権利が発生し、それを相続人が相続によって承継することになります。
相続預貯金の使い込みに対する返還請求の手続選択
それでは、相続人が請求をするには、どのような手続を取ればよいのでしょうか。
まずは引き出したとされる相手方と、話し合う=交渉を行うことが考えられます。相手方に引き出しについての説明を求め、その説明が合理的かどうか、証拠があるかどうかを確認します。
相手方が説明をしない場合、不合理な説明しかしない場合は、請求額を明確にして支払いを求めます。
ここで重要なのは、相手方が預貯金から引き出したかどうかを確定させることです。相手方が、引き出したことを認めれば、仮に訴訟手続に移行しても、その事実は前提事実となり、争いがなくなります。他方で、相手方が引き出したことを認めなければ、仮に訴訟手続に移行しても、相手方が引き出したことを証明する必要が出てきます。
一般に、相手方が引き出したことを否定した場合、それでも相手方が引き出したことを証明することは、難しい場合が少なくありません。
したがって、仮に請求を拒絶したとしても、相手方が預貯金から、引き出したのか、引き出していないのかが確定するだけでも、意味のあることとなります。
相手が支払いに応じない場合や、そもそも交渉で進めるのがふさわしくないと考えられる場合には、裁判所に訴訟を提起することを検討します。
訴訟は、原則的に「地方裁判所」で行います。ただし、金額が140万円以下の場合は、簡易裁判所となります。
もっとも、家庭裁判所における遺産分割調停で、使い込みの問題をあわせて協議していく場合もあります。
使い込みの金額がさほど大きくない場合や、相手方が使い込みを認めて話し合いに応じる見込みがある場合には、あえて訴訟を提起せずに、遺産分割調停の中での解決をはかる方法も考えられます。
ただし、時効の問題がありますので、話し合っているうちに時効にならないよう、注意が必要です(時効期間は不法行為に基づく場合は使い込みを知った時から3年(民法第724条)、不当利得に基づく場合は5年あるいは10年(民法第166条第1項))。
交渉を先行させるのか、訴訟の提起を行う必要があるのか、調停内での解決を図るのかについて、相手方の態度や証拠状況に基づき検討する必要がありますので、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
どのような資料が必要か
使い込みが疑われ、訴訟による解決を図ることとした場合、引き出しが相手方によって無断で行われたことを裏付けられるよう、また使い込みの金額を確定するため、証拠となる資料を集める必要があります。
それでは、どのような資料があれば裁判所に返還請求を認めてもらえるのでしょうか。
使い込みが疑われる金融機関の口座の通帳・取引履歴や払戻請求書等
まず、使い込みが疑われる金融機関の口座の通帳を確認して、いついくらの預貯金がどこで引き出されたのかを確認することが不可欠です。
通帳を手に入れられない場合には、その金融機関で取引履歴を取得することで通帳に代えることもできます。相続人であれば、金融機関で被相続人の預貯金の取引履歴を取り寄せることができます。ただし、取り寄せの際に、どのような書類を用意する必要があるか、いつまでさかのぼって取得できるか、手数料がどのくらいかかるかは、金融機関によって異なりますので、注意が必要です。
もう一つ、取り寄せると有益なことが多いのは、窓口で引き出しが行われている場合の払戻請求書等の資料です。窓口で手続きを取った人の筆跡が残っていたりするため、誰が払戻手続を行ったかで揉めている事案などでは、大変有益な資料となります。
金融機関で被相続人の預貯金の取引履歴や払戻請求書等の資料をどのようにすれば入手できるのか、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。
親の生活状況や認知症の程度を証明できる資料
通帳や取引履歴から、多額の預貯金の引き出しが確認されたとしても、それが親本人によって、または親に頼まれた誰かによってなされた場合には、「使い込み」があったと認めてもらうことができません。
引き出された事実が確定しても、「親がしたことだ」、「確かに自分だが、親から頼まれてしただけだ」という反論は、使い込みの事案で、相手方からよくなされます。
このような主張がなされた場合、使い込みに対する請求が認められるためには、引出しが親の意思に基づかないことを証明する必要があります。
それに対する再反論としては、引出しがなされた当時の親の意思能力がどの程度のものだったのか、身体状況がどのようなものだったのかが重要になります。
これらを確認するのに有益なのが、親が入院していた医療機関のカルテや医療記録、入所していた施設の介護記録等です。
これらの記録において、引出しがあったときに、親が認知症等でとても引出しができない、あるいは、引出しを依頼できる状況でなかったことが示せれば、「親が引き出した」、「頼まれて引き出した」という反論を否定することができます。しかも、これらの記録は、利害関係のない第三者が作成したものであることが通例ですので、極めて大きな証拠価値を有します。
使い込みが疑われる事案は、お手持ちの証拠で立証ができているのか、どのような証拠を収集することができるのかといった点において、またいかなる手続を選択すべきかという点において、慎重な検討が必要です。相続財産の使い込みが疑われるような場合は、弁護士からの視点でのアドバイスが重要ですので、一度当事務所までご相談ください。